びしょ濡れ

久しぶりの更新になります。
いやあ、何でしょう、文章の書き方を忘れてしまっています。
今までどうやって書いてたっけ?
ちゅうかそれ以前に書き方って何?
と意味不明な悩みの持ち主足草です。
ご無沙汰してます。




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前から気になっていたのだが、社内にびしょ濡れの女がいる。
髪の毛とか洋服とか靴とか鞄とか、全てがびしょ濡れなのである。
どのくらいびしょ濡れなのかというと、それはもう、とにかくびしょ濡れで、
晴れの日であろうが風の強い日であろうが常にぽたぽたと、水が滴っている。
水の滴るいい女、なんて言葉は彼女のためにあるのではないかと思いがちだが、
残念ながら彼女はそこまで美しい人ではなかった。
いや、決して不細工な訳ではないのだが。
どんなに時間が経とうとも、不思議とその「濡れ」は乾くことがなかった。
彼女とは席も遠いし、今まで数えるほどしか話したことはない。
びしょ濡れの女性に向かって「びしょ濡れですよ」なんて
言えるわけもなく僕はただ見て見ぬ振りをするしかなかった。
本人だってそのことに何の違和感もないかのように振る舞い、
周りもそれを指摘するような発言はしなかった
あの濡れ様は、僕にしか見えていないのだろうか。
そんなことを思った彼女の入社半年目、同僚の瀧川がタブーを口にした。

「佐藤さんって、どうしていつも濡れているんですか?」

社内の空気が固まった。
みんなパソコンから目を離さず仕事をしているが、
確実にその発言の返答に耳を傾けている。
びしょ濡れの女はファックスを送る予定の書類をはらりと落とし、

「……え?ど、どういうことですか?」

としどろもどろに答えた。

「そ……そ、そうだよ瀧川、女性に向かって濡れてるなんて失礼じゃないか。
セクハラだぞそれは。空気を読め……じゃなくて発言をもっと考えろ……よ?」

ドア近くの山中が妙などもりかたでフォローする。
全くフォローになっていないような気がしたが、
そんなことよりもこの後の展開が気になって、僕はもとよりみんな仕事の手を止めている。

「だって気になってたんだもん。そんなに濡れて寒くないんですか?」

だもんって何だよ。
とりあえず誰もが「空気読め瀧川!」と思っているに違いなかった。
案の定、彼女はその場でしゃがみ込み、顔を両手で覆って泣いている素振りを見せた。

「私……そんなに濡れてませんっ!」

「びしょ濡れだよ!」ともれなく全員が心の突っ込みをしたのだが、
彼女は顔を覆い隠したまま走って会社から出ていってしまった。
社内には気まずい空気と、彼女の座っていたしるしでもある水たまりが虚しく残っている。

「お、俺、彼女を止めに行くよ」

窓際の川村が沈黙を破ってオフィスから飛び出していった。

「あー、あいつあの女に気があったからな〜。俺とのことも知らずに……」

奥の壁際で菊本が意味深な発言を残し、またパソコンに向かう。
誰もが、それどういうことだよ。と言いたげな表情をしている。
僕はもう仕事のことなんて考えていられなかった。
平和な社内の空気が一瞬で崩壊した。
その嫌な空気に耐えかねた瀧川が突然立ち上がり、菊本に手招きをしている。
自分だけその詳細を聞こうなんて思っているに違いない。
菊本は立ち上がり、そしてそれを制するように山中も立ち上がって口火を切った

「っちゅうか、ヤッたの?」

「え!?うそん!?」

瀧川が大袈裟なジェスチュアで驚いて見せ、菊本の席に駆け寄った。
幸い(?)菊本の斜め後に席がある僕は、立ち上がらなくとも話の内容は聞けそうだ。
手に汗が滲む。これは緊張なのだろうか
好奇心からも汗は出てくるのか。

「うん。ヤッたよ。一回だけ」

「えーーー!?」

である。勿論全員がそう口にした。
さらっとそんなことを言ってしまえる彼の人格を疑ったが、
それよりも聞きたいことは山のようにある。
いや、とにかく、何故、びしょ濡れなのかということだ。

「で、何でびしょ濡れなの?」

山中が気持ちを代弁してくれる

「っていうか、いつヤッたの?」

瀧川が質問を重ねたが、重要なのは山中の質問だ。
菊本はしばらく正面を見据えて考え、

「いや、知らない」

何故!?何故に身体の関係まで持ったお前がそれを知らないの!?
僕はいつの間にかデスクから身を乗り出し、
三人の中に頭を突っ込んでいた。

「何で知らねーの?聞かなかったの?何で聞かないの?」

パニクッた瀧川が早口で責め立てたが、菊本は至って冷静である。

「いや、聞けないだろ、普通。本人からも何も言い出さないしさ」

「え?あの水が何なのかも知らずにお前は彼女とあーなったりこーなったり
あんなところをこんなふーにしたりしてそれで仕舞いには……」

「瀧川君、たーきーがーわーくん!ちょっと落ち着けよ」

山中が瀧川をなだめ、話を原点に戻す

「で、あれ、水?」

「あー、水じゃないと思うね」

菊本は思い出すように斜め上を見つめながら答えた。
それから上唇をペロっと舐めて

「あれ、ちょっとだけぬるぬるしてたしなぁ。……忘れたかも」

「ぬるぬる!?」

僕を含む三人が口を揃えた。
そして山中が何かを思いだしたかのように顔を上げる。

「ちょっと待って、あそこの水たまりを調べたらいいんじゃない?」

あ、そうか。
全員がファックス機の前に顔を向ける。
彼女が座り込んでいた場所の水たまりは、オフィスの蛍光灯の光を受けてキラキラと輝いていた。
瀧川が素早く水たまりの横に飛んで行き、
しゃがんでソレを凝視する。
山中もそこにしゃがみ込み、小指でソレを掬って何の躊躇いもなくぺろりと舐めた。
山中の表情に視線が集まる。

「……どう?」

瀧川が恐る恐る聞くと、山中は眉間に皺を寄せて少し考えてから

「何か……食べたことある……かも……?」

「何ソレ!?」

と言いながら瀧川もその水を舐める
みんなそれが床にあるものだということを忘れているのか、
さもなくばどうでもよくなっているのか。

「あ、……コレ……」

「でしょ?食べたことあるっしょ?」

二人が悩む。僕はその得体の知れない水に手を出す勇気が無くて
ただ見守るしかなかった。
菊本はただ黙ってその様子を見ているだけだ
しばらく悩み、うつむいていた瀧川がしかめっ面のままゆっくりと顔を上げた。

「コレ……いや、何となく、何となくだけど……いや、いいや」

「良くないよ!言えよ!」

僕は我を忘れて大声を出してしまった。
瀧川はもう一度その水をぺろりと舐めて

「何となく……だけどこれ、ふっ……風俗の味がする」

思わず僕は「は?」と聞き返してしまった。
彼女の全身を濡らしていた水っぽい何かが風俗?
食べたことあるとか味がするとかいう表現が当てはまらない素っ頓狂な答えに僕は落胆した
馬鹿かこいつは。そう思った矢先、山中が声を上げる

「あー!それそれ!これってすげー風俗の味がする!よくわかんないけど。」

「それってローションとの味じゃないの?」

僕は呆れてやる気なく聞いてみたが、どうもそうではないらしい。

「そういえばそんな感じだったかも」

菊本までもがそう言い出した。
こうなると僕も舐めてみるしかない。三対一じゃあ反論のしようがないからだ
小指に少量の「風俗水」を掬い、ゆっくりと口に運ぶ。
ここで躊躇っていてもしょうがないので一気に小指を口に入れて舐めた。

「……ふっ、風俗の味がする……」

思わずそう口に出してしまった。
それほど風俗臭い水だった。ヘルスとか、ピンサロとか、そういった種類の風俗だ。
少しだけ粘りがあり、口に入れると一瞬甘く、後味が生臭い。
すえた匂いを、無理矢理甘い匂いで覆い被せたような味。というか匂い。
相対的に言うと臭い。
まあ他人から吹き出た(?)水分が美味いとは思わなかったが、
何とも言えない微妙なこの味は、風俗としか表現のしようがないものだった。

「何だよ!風俗の味って何だよ!!自分で言っててわけわかんねえよ!」

山中が頭を抱えてわめき散らす。
それを横目に瀧川が真顔で静かに口を開いた

「佐藤さんって風俗で働いてるのかな」

全員の動きがぴたりと止まった。
それはそうかもしれないし、そういう思考の展開になるのは当然だ。
しかしそれだけで彼女を風俗嬢扱いしてしまうのは少し安易な気がするのも確かだ。
でも普段は何気ない普通のOL、しかしアフターファイブになると女は新宿へと向かい、
そこで夜の顔を見せる彼女。
僕らの貧困な発想はそんな彼女を憧れとして意識せざるを得なかった。
いや、それは彼女と付き合いたいとかそういうことじゃなくて、
風俗嬢であることを彼女はばらされたくない筈だ。
それをダシにするわけではないが、そんなこんなの一連があって彼女の悩み相談などを受け持ち、
そういう話の流れになったとしたら……
もしかしたら、何かおいしい話へと雪崩れこまんでもないのではないだろうか。
それにはこの四人が知っていては不都合である。
個人戦だからこそ、「仕方ないわね」的な流れに発展するのであって、
こんな大人数で詰め寄ったら彼女も引いてしまうに違いない。
ここは風俗嬢であることを完全否定しておいて、
あとでその可能性を個人活動で探って行くしかないな……

「違うだろ」

三人の声が揃った。菊本以外の三人だ。
三人同時に風俗嬢である可能性を否定したがっている。
顔を見ると、全員が全員を蹴落としたい表情をしていた。
間違いない。こいつら、僕と同じことを考えていやがる……
ここで抜きんでるには、彼女にそれとなく接近し、いち早く悩みを聞く環境を手に入れなければならない。
そうなるには……

「ぐぉ!」

思わず声を上げてしまった。
よく考えなくとも、その状況に最も近い男が先までここにいたじゃないか!
濡れている彼女を気づかって悩みを聞いてやれる今最も近くの男性……

川村だ。

川村に、僕らは四ゲームくらい先を行かれていたのである。
顔を上げると、山中と瀧川両方の顔に落胆の色が見えた。
ここでやましい気持ちを持った三人が撃沈したのである。
三人の目が合い、瀧川がくすくすと笑い出した。

「つか、あんまし可愛くないしな」

「そうそう。あれで可愛いくても、風俗臭い女はなぁ」

「ちゅうか全身びしょ濡れの女って何?変態?」

と最低な会話で和んでいたのだが、菊本だけが気まずい顔をして黙っていた。
まさかと思い、僕ら三人が振り返るとそこには、

川村が濡れ女と手を繋いで、ドアの前に佇んでいた。
沈黙。である

濡れ女が「わぁっ」と泣いて又、会社から出ていった。
川村も焦ってまた女を追いかけようと踵を返す。

「川村ぁ!!」

菊本が大声で川村を呼び止めた。
川村は恐る恐る振り返り、目に涙を溜めている。
菊本は真剣な表情で川村に向かって頷き

「濡れてるし、ええんちゃうか」

とだけ言った。
川村はぐっちょりと濡れた左手を凝視したまま固まった



誰も何も言わず、二分が過ぎようとしていたその時、
川村の表情から、明らかに情熱が消え失せ、
そして顔を上げて言った。

「濡れてるし、えっか」
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by gennons | 2005-01-17 09:26 | 妄想
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