色っぽい唇

タバコを買いに行こうと思い道を歩いていたら
色っぽい唇が落ちていた。

気持ちが悪いのでその唇を避けるように通り過ぎようとしたら、
その唇は僕に投げキッスらしきことをしてきた。
僕はその動きがいやらしくて、少し立ち止まっていた。
と、前から尻のデカイ女が歩いてきた。
僕はこの状態を見られては恥ずかしいと思い、
唇をそのままに、通り過ぎようとしたが、
尻のデカイ女にこの唇が見つかってしまうのが恐くて、
僕は唇を拾ってポケットに入れると、
何事もなかったようにそこを去り家路についた。
家に帰ったら先ず鍵を掛け、カーテンを閉めて
ポケットに手を入れてみた。
唇は、イヤラシイ動きで、ポケットの中に入ってきた僕の薬指をぺろりと舐めた。
手のひらに載せてみると、クネクネといやらしくのたうち回っている。
唇は、常に濡れて光っていた。
これはきっと、助けられた唇のお礼なのだと思い、
僕は人差し指で唇を撫でてみた。
唇は嬉しそうに僕の人差し指を舐め返してきた。
僕は小さな子犬を拾ってきたような気持ちになった。

何か食べるかなと思い、
酒の肴に買ってあったサラミを唇の前に置いてみたら、
唇は美味しそうに、サラミにぱくついた。
サラミは、上唇と下唇の間に入ってしまうと、
そこからなくなってしまった。

僕はお風呂場から洗面器を持ってきて、そこに唇を入れた。
ここがお前の新しい部屋だ
そういうと、唇は嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねた。

唇を飼い始めてから、僕の生活は変わった。

今まで定職にも就かず、日雇いを繰り返していた僕が、
現に今、就職活動をしているのだ。
もっとお金を稼いで、
唇においしいものを食べさせてやりたかった。
いろんな所に連れていってやりたかった。
そのために僕は、日雇いの日数を増やし、
同時に就職活動を頑張った。

唇の好物は、腸詰めとミル貝だ。
僕は毎日唇に腸詰めとミル貝をあげるのが楽しみで、
仕事が終わったら一目散に家に帰ってきた。
唇は、腸詰めとミル貝を食べた後、
僕の顔によじ登ってきて頬にキスをしてくれた。
頬にキスされるのが僕は照れくさくて
やめろよ……と言いながら
いつものように優しく唇を洗面器に戻してやった。

唇はお酒もよく飲んだ。
ウィスキーはシングルモルトをこよなく愛し、
その中でもグレンフィディックとアドベックを飲んでいるときが
一番嬉しそうだった。
焼酎やビールものんだが、ワインはどうやら苦手らしい。

唇は、その微かな動きによって、精一杯の感情を表していた。

お酒が入ると唇は、より色っぽくなった。
潤った唇をより濡らして、僕にキスをする回数が増えた。
たくさんたくさんキスをする唇だったが、
僕の唇には触れようとしなかった。
それは、唇と僕の間で、触れてはいけない禁断の行為なのかもしれない。

そんな唇との生活が、三カ月を過ぎたある夏の日、
僕の就職が決まった。
就職先は、グラフィックデザインの事務所だ。
僕はMacでの作業ができなかったが、それは
雑務をこなしながら少しずつ教えてくれるようだった。
ぼくは嬉しくて、そのことを唇に言って聞かせた。
唇は、嬉しそうにぴょこぴょこ跳ねると、
僕の指先に、長いキスをした。

その唇を見て、僕はキスをしたくなった。
僕がキスをする場所は、唇にしかない。
唇と、唇を重ね合わせたかった。
指先にキスをしている唇を、僕はそっと、左手ですくい上げた。
唇は何かを感じ取ったのか、硬くなり、少し震えている。
このまま唇を重ね合わせてしまうと、
唇はいなくなってしまいそうだった。
僕の前から、消えてしまいそうだった。

でも僕は、唇にキスをした。
甘く、長いキスだった。

次の朝、僕は新しい会社に心を躍らせて家を出た。
その事務所は、初日の僕をもフル稼動させるくらいに忙しかったが、
僕は一生懸命頑張った。
そして仕事が終わり、一目散に家に帰ってきた。
唇は、洗面器の中でいつものように眠っていた。
僕に気が付いた唇は、指先にお帰りのキスをしてくれた。
僕はなんだかホっとして、
グラスに氷を入れ、スコッチを注いだ。
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by gennons | 2004-09-22 15:23 | 妄想
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