エレベーター、上り。

毎日はキツイです。不定期更新でお願いします。
って誰に強制されたわけでもないんですが。







それは何の前ぶれもなく起こった
僕と女、今この空間でたまたま乗り合わせただけの関係
エレベーターでの共存

ぷす〜ん

なんてことはない。
ただの放屁である。
ただ、その音量は赤子の泣き声に匹敵するくらい大きい。
女と僕との間に生まれる微妙な空気
どちらかかが「コイた」。答えはいとも単純である。
僕ではない。女の屁だ。
女は顔を赤らめた
誤魔化しようのない立派な放屁であった。
僕はそのことについて女を責める気はない
臭いことを嫌がったりもしない
迷惑であるような素振りは見せない
しかし女は顔を赤らめ、バツが悪そうに身を縮めた
僕は考えた
この状況で、この女を辱めているものが何なのか。
それは屁自体なのか
彼女が屁をした、その行為のことなのか。
屁による匂いという二次災害なのか……

彼女を辱めているものは、そのどれでもない。
この僕自身である。
女が恥ずかしいのは僕に対して恥ずかしいのであり
屁に対してでも匂いに対してでもない
全く他人の僕がここにいたからこそ、彼女は顔を赤らめているのである

これは羞恥プレイであると僕は思った

Mっ気の強い僕が、今日、ここにいる間だけ
ささやかなサディストになっていられるのである。
僕はその優越感に浸り、誇らしげに鼻を鳴らした。
女を見ると、何事もなかったような素振りを見せている。
だが顔の紅潮は隠せない
僕は女の顔を一瞥した。
辱めてやったのだ
女は僕と目を合わせなかった
僕は調子に乗ってもう一度女を見た
女は、何度も見てくる僕に腹が立ったのか
鋭い眼光で僕を睨み付けた
僕はびびって目を逸らした。

やっぱり、睨まれる方が性に合ってるな。

僕の中のマゾ気質がしみじみとそう囁いていた
結局僕は、サディストになりきれるほど
マゾヒズムにも深く入り込んでいなかったのである
気の弱い「エム」
SMで言うMではない。
みんながそれぞれ口にしているM。
「あたしエム気質なの。えーお前絶対エスだと思ってたよマジで」
とかいうときに使う「エム」なのだ。
僕は考えを悔い改めた。
そしていつもの僕を取り戻し、
新しい妄想の世界へと旅立った

旅路に僕が見たものは、女だった
いやらしい目をした女
口元をクイッと上げる笑い方
ここぞというタイミングで、女は屁を出したのである。
そう、女の屁は、「わざと音を出した屁」なのである
それは露出狂に近い趣向で、自分を追い込み、恥ずかしさをさらけ出すことによって
己の士気を高め、その音を聞いたものの心を惑わせる罠。
僕はさしあたって、その罠に軽々と掛かったアリンコである。
アリンコは足掻く。
「音」を聞いていなかったように振る舞えば振る舞うほど、不自然になる動き
女が張り巡らした蜘蛛の巣
微動だにできない。膝が震える。
そして唐突に感じる、耳元の吐息

「ねえ、聞いたんでしょう?」

ドギっとして僕は振り向く
近すぎる距離
触れそうな唇
開いた胸元
甘い、香水と体臭
手に、汗が溜まる

「口止め料、払わなくちゃ……」

「だ……大丈夫です……そんな……」

エレベーターの壁に背を押しつけて、そのままずるずるとへたり込む僕。

チーーーーン

ドアが開く。
女は、何事もなかったように六階で降りていった。
不自然なのは、小さな箱の隅で
一人へたり込んでいる僕だけ。

エレベーターは、僕の妄想の箱。
僕の夢が乗る箱。
今日も僕は、夢を見るために、
一階から八階までを往復する。


エレベーター、上り。

その間三十数秒。

僕が射精するまでに十分事足りる時間。
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by gennons | 2004-10-06 17:09 | 妄想
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