いやらしい匂い

家に帰る途中、いやらしい匂いが鼻をかすめた
古い電灯の灯りだけが頼りの路地
人影のない暗い道で、僕は立ち止まり、周りを見渡した
誰もいない。夜も遅いので周りの家々も静かで、暗い。
少し気になったが、疲れていたので家路へとまた歩みを進めた
するとまた、いやらしい匂いがしてくる
先よりも若干強く匂う
甘酸っぱくて、生臭いような匂い
かといってそう断言できるほどはっきりした匂いではない。
もっと抽象的な、漠然と、いやらしい匂い
どこから流れてくるのだろう……
そして、何の匂いだろう……

僕は気になりながらも、路地を進んでいった
家の方向に進むに連れて強くなる、いやらしい匂い
その匂いを嗅ぎながら、僕はいやらしいことばかり考えていた
いや、寧ろこれは考えさせられていたのかもしれない
少しずつ、しかし確実に速くなっていく鼓動
この匂いの先にあるものが何なのか。
僕は夢遊病者の様に歩いていた
とてもとても、いやらしい想像をしながら。

路地は突き当たりに差し掛かった
僕の家はここを左折する
しかしいやらしい匂いは明らかに右から匂ってきている
僕は迷っていた。
右か、左か、僕の進むべき道を。

7分くらいだろうか、僕はその分かれ道に立ちつくしていた
僕は鞄を足元に置いた
会社の大事な書類が詰まった鞄だ。
そしてネクタイをはずし、鞄の上に置く
誕生日に、彼女からもらった大切なネクタイ。
僕は大きく深呼吸した。
深呼吸するのは、新しい空気を体に取り入れるためだ
しかし入ってくる空気は、いやらしい匂いの空気
僕は深呼吸が、何もリセットしてくれないことを知った
いやらしい匂いに、僕は支配されていた

少し歩いたところに、こんな道があるとは思っていなかった。
家の近くの知らない道
古い家屋が並ぶ、暗く寂しい住宅街
いやらしい匂いの根元はもう近くまで来ていた
僕は股間を腫らしたまま、足を引きずるようにして
いやらしい匂いの元に近づいていく。
そして僕は暗い家々の中に、小さな灯火のある
古い一軒家を見た
重厚な鉄製の大きな門は、既に開かれている
これは罠なのかもしれない
僕は誘われているのだと、本能で感じた
近代的な日本家屋といった風貌のその家は、
門から庭、玄関にかけての敷石が綺麗で、
とても大きな平屋だった。
窓にうっすらと見える灯火は、
いやらしい影を作っていた
女の影なのか、何の影なのかはよく分からない。
うにょうにょと遅く動くその影は僕にいやらしい何か想像させた

僕はゴクリと唾を飲むと、敷石の庭に足を踏み入れた
いやらしい匂いは、もう僕の体に充満している
全身が、いやらしい匂いに包まれていた
庭を越え、玄関まで来た僕は目を閉じてみた
視覚を奪うことにより、臭覚に気持ちを集中させた
ねっとりとしたその匂いは、臭くも感じられた
しかしその臭さは、いやらしい匂いとして
僕の股間を限界に近いところまで腫れさせてくれる
そして僕は、ここにあるものが、匂いだけではないことに気が付く。
微かに聞こえる、誰かの息づかいがある
一定のリズムを刻みながら大きくなり、小さくなり、
その息づかいもまた、いやらしいものだった
確かな人の気配だった
僕は興奮し、玄関のドアに耳を付けてみた

カタン

僕の体重に押されたドアが、少し音を立てる
マズイと思った刹那、息づかいが止んだ
僕は身を固まらせた
ドアに耳を付けたまま、動けない
その間も、いやらしい匂いは僕の鼻孔を刺激し
理性を曖昧にしていく
息づかいは再開しない
ドアを挟んで、僕と誰かが息を殺して動かなかった
誰かはもう、そこにいないかのような
静かな気配だった
僕は慎重にドアから耳を離すと、ドアノブにそっと手を乗せた
口の中が、唾で一杯になる
ゆっくりとノブを回す
鍵は、かかっていない
ドアに少しだけ隙間ができ、
いやらしい匂いがそこから僕を通し、外へ流れていく
なま暖かい空気と重く、濃すぎるくらいのいやらしい匂い
自分の顔が紅潮していくのがわかる
戻って来られない予感がした
僕は、それでも満足だと思った
いやらしい匂いは、僕の全てを包み心を満たしてくれる
僕はもう一度目を閉じて
いやらしい匂いを噛みしめながらゆっくりと、そのドアを開いた
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by gennons | 2004-10-12 22:07 | 妄想
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