アピール



セックスアピールについて考えていた。

ランチタイムは決まって独りだから。
同僚やら上司やらクライアントやらが同じ店でわいわい楽しく食べてるところから少し離れ、
隠れるようにコソコソと、いつものように鮭の西京焼きがくるのを待っていた。
混雑した店で、料理がなかなか出てこない。
そんなときはたいてい折り紙でどこまでも小さい鶴を折ったりなんかしてるんだけど、
今日に限って持ってくるのを忘れた。
たばこでも吸いながら待とうと思ってポケットから煙草を出すと、
禁煙ブームまっただ中の現代でいくら喫煙可能な店でも隣で食事してるのに無神経なやつがたばこ吸い始めるとか原始人なの?頭イカレてるの?素人童貞なの?とか言ってきそうな、足の裏みたいな顔のOLが僕のキャスター1ミリの箱を凝視してきたので
たばこの箱を開けたり閉めたりパコパコと、ささやかなセックス音で反撃しながら料理を待つ間、
セックスアピールについて考えてた。

アピールというほど自発的なものでもないし、
セックスと言うほど直接的でもない。
なので性的魅力と訳すのに違和感が残る。
でもアレは、自らをセックスアピールなんだと言った。僕の部屋の、机の上に現れて。

セックスアピールと言うよりはテニスボールに唇と鼻と、ぱっちり目だけがくっついた
新種のキモカワキャラの類にしか見えないそいつは、
あなたに足りないモノとして贈られたのが私であると言った。

確かに僕は女の子の目を見て話ができない。というかそんなモノに出会わないし興味がない。
だからセックスアピールを感じたことなどない。
そりゃあ、僕に足りないモノがセックスアピールだってことは何となく理解できるけど、
それ以前に足りないモノなんて下水のゴキブリ程あるはずだ。
なぜセックスアピールなのかと問いかけても、
理解の範疇をとうに超えたそいつの存在は、必要以上の言葉を喋らない。
僕からそれ以上、そいつに話しかける義理も理由も見あたらない。
無言のままに、僕たちは見つめ合っていた。

そいつの印象はまあ、とにかく、気持ち悪い。
一言で言うならベルセルクのベヘリット。
わからない人は先生に聞いてみるといい。

そいつは見つめ合っている最中、片目を閉じたり唇を舐めたり、
鼻をひくひく痙攣させたりして僕を誘おうと必死になっている。
僕はそれに応えるでもなく、無視するわけでもなく、ただ眺め続けて夜が更けていく。
こんなにも無意味な夜を過ごす大人が他にいるだろうか。
そう思いながらも、ソレから目を逸らすことができないのは
僕に足りないたくさんのモノの一つを、手に入れたいと思っているからだ。

ソレが突如、僕の机の上に現れてから一週間が過ぎた。
相変わらず僕らは見つめ合う。そして夜が更ける。

ひとつ変わったことは、僕がウインクできるようになったことと、
唇を乾かさなくなったこと。
ソレに対して、できるだけ好意的に、自分の気持ちをアピールできるようになったこと。



1時間くらい過ぎてようやく西京焼きが運ばれてきた。
店員も、僕の存在を忘れ去っていたらしい。
いつものことなので気にしなかったのだけど、味噌汁が来ていないことに気がついて僕は店員を呼んだ。
店員は面倒くさそうに味噌汁を持ってきた。味噌汁の中にどっぷり親指を浸からせて。
ぱっちり目の店員は、ゴトンと乱暴に味噌汁を置くと、親指を舐りながらどうぞと言った。

僕はぎこちない素振りで片目を瞑る。何度も何度も瞑る。
片目を瞑る練習は、毎日怠らなかった筈だ。
アレを贈ってくれた人に、今日、出会っても良いように。






前回のトラぼけのときに書いたんです。
みんなの前でカラオケ歌ったことない弱気な少年が勇気を出して
こっそり曲を予約したけど、その曲のイントロが流れ出した時に
「この曲入れたの誰?誰?」みたいなことになり、
知らん顔してたら間違いかーなんつって消されたみたいな感じで
前回のトラぼけは終わってました。

後日ミクシーとかで
あの時、「秋桜」入れたの僕だったんだよね…
って告白するようなかんじの更新です。暑いです。仕事してます。
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by gennons | 2008-07-15 16:10 | 妄想
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