景山君のお尻

景山君のお尻は、綺麗だったのかもしれない。
いつもお尻に鞄を当てて歩いていたし、階段を登るときは特に気を付けているようで何度も後ろを振り返るのだ。
お尻を触られたりカンチョーされたりしたときは、
みんなを引かせるくらい大声を出していたし、声を出して泣いてしまうことさえあった。
一度だけ、同じクラスだった村野がプールおわりの着替え中に景山君のバスタオルを剥ぎ取ろうとしたが、
タオルを掴まれてパニックになった景山君は村野の腕を鉛筆で刺し、血が出て大騒ぎになった。
小学生の悪ふざけが彼にだけは通用しなかったのだ。
悪ふざけを真剣に否定してしまう彼の性格は、周りを遠ざける。
小学校を卒業しても、高校に入学しても、彼の周りに友達と呼べる人を僕は見たことがなかった。
誰とも仲良くならない彼にはたくさんの噂が立った。
「尻を犯されたことがあるんじゃないか」とか「いつも漏らしているんじゃないか」「恥ずかしい模様の痣があるのかも」
なんてみんな好き勝手言っていたけど、卒業してばらばらになってしまった今、真相は闇の中にある。
今になって思うが、彼のお尻は綺麗すぎたんじゃないだろうか。
もしも彼のお尻が、昨日おかずにした「蒼井そら」のお尻にも負けないくらい完璧なお尻だったら
それを小学生にして持ち合わせ、意識していたとしたら、隠したくなるんじゃなかろうか。

そんなことを考えながら、景山君に似た取引先の営業マンを尾行して
とうとうトイレにまで付いてきてしまった。
閉ざされたドアの向こうで、景山君似の営業マンはお尻を丸出しにしている。
深い闇に沈んでしまった真相が、ドア一枚を隔ててすぐそこにある。
耳を立てても、ケチャップの最後を使い切るような音が響くだけで、
なぜか蒼井そらの、弾けるような身体と笑顔が頭に浮かぶだけで。



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よだれだらだら病の足草です。
よだれが止まらないので最近流行の「ぐぐる」ってのやってみたんですが
病気なのか何なのか結局わかりませんでした。
ちゃんと読まないとわからないようにできてるみたいです。
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# by gennons | 2008-10-21 11:19 | 妄想

電流

肉欲だけを求める男の汗は、身体に纏わりついてくる。
粘りと、鼻孔の奥を深く抉るような重苦しいにおい。
重なり合った皮膚から伝わる不快な液体が、私の肌を濡らし、流れず、毛穴を覆う。
底のない沼に身を沈めているような錯覚に囚われて、私は思わず嗚咽した。
それでも男は動くことを止めず、垢だらけで汚物のような巨躯の下、強く目を閉じると、
臍の下だけが熱を含み、マグマのように渦巻いているのがわかった。



男は、繁華街の路肩に佇む私の前にかがんで太い指を三本立て、3でどうかと話しかけてきた。
ニンニクと、壊れた暖房の臭いが混ざったような口臭に少し目眩がしたが
空腹に耐えられないと思った私は黙って頷いた。

男の名前はササキというらしい。
それ以上は知らないし、知りたいとも思わない。
ジャケットの裏に「Y.Sasaki」と刺繍してあるのが見えただけだ。

ホテルのお風呂で、ササキは私の身体を念入りに洗った。
耳の裏から首筋、肩、脇、胸、乳房、乳頭、脇腹、臍、尻、陰部、股、膝、脛、足首
そして足の指先まで、泡だらけの分厚い両手でゆっくりとなぞる。
その左手には大きなリングが鈍く光っていた。
こんなササキにも、私くらいの娘がいるのかもしれない。
私は口をまっすぐに閉じてガラスに映る太ったササキと、
見慣れた十代の身体を眺め、他人のようだと思った。
途中何度か私の指先から、小さな火花が散ったが、ササキがそれに気付くことはなかった。



私の上でササキの背筋は大きく伸びて、全身から粘りのある汗が一気に吹き出した。
ササキの硬直は更に膨らんで、私の子宮をいっそう刺激する。
目の前が星を散らしたかのような綺麗な光に包まれたかと思うと、私の全身に100万ボルトの電流が駆け抜けた。
バリバリという音と、ササキの声が2オクターブ高く、激しく響いて、
ササキは身体を小刻みに痙攣させていた。
肉の焼ける匂いが少しずつ、部屋に充満していく。
溶けたササキの皮膚が私の乳房にトロトロと積もり、
その下で青白い電流がパチパチと小さな音を立ているのが聞こえた。

丸二日間何も口にしていなかった私は、ササキとつながったまま身を起こし
一番柔らかそうな頬肉にかぶりついて、ゆっくりと味わいながら咀嚼した。






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たまたま、インドの山奥で修行をしていたあなたは、
たまたま、100万ボルト電撃ショックの技を会得してしまいました。
さて、あなたは、この100万ボルト電撃ショックの技をどう使いますか?
世界平和のため?それとも、世界征服のため?

で、ボケて下さい。

さあ、あなたの素敵な100万ボルト電撃ショックをお待ちしてます。

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いつのまにか次のお題が出ていて驚いている次第です。
鬼太郎役の子を知ったときくら驚いているのです。
なので今回もご勘弁お願いします。(とれるとも思ってないんだからねっ!)
なんかがっつり参加してるみたいになってますけど
ボリショイサーカス見にいきたいですけど
肉食べ過ぎでうんこも固いですけど

そこんとこ、ね。みんなやってることですし。
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# by gennons | 2008-07-20 01:33 | トラバ

アピール



セックスアピールについて考えていた。

ランチタイムは決まって独りだから。
同僚やら上司やらクライアントやらが同じ店でわいわい楽しく食べてるところから少し離れ、
隠れるようにコソコソと、いつものように鮭の西京焼きがくるのを待っていた。
混雑した店で、料理がなかなか出てこない。
そんなときはたいてい折り紙でどこまでも小さい鶴を折ったりなんかしてるんだけど、
今日に限って持ってくるのを忘れた。
たばこでも吸いながら待とうと思ってポケットから煙草を出すと、
禁煙ブームまっただ中の現代でいくら喫煙可能な店でも隣で食事してるのに無神経なやつがたばこ吸い始めるとか原始人なの?頭イカレてるの?素人童貞なの?とか言ってきそうな、足の裏みたいな顔のOLが僕のキャスター1ミリの箱を凝視してきたので
たばこの箱を開けたり閉めたりパコパコと、ささやかなセックス音で反撃しながら料理を待つ間、
セックスアピールについて考えてた。

アピールというほど自発的なものでもないし、
セックスと言うほど直接的でもない。
なので性的魅力と訳すのに違和感が残る。
でもアレは、自らをセックスアピールなんだと言った。僕の部屋の、机の上に現れて。

セックスアピールと言うよりはテニスボールに唇と鼻と、ぱっちり目だけがくっついた
新種のキモカワキャラの類にしか見えないそいつは、
あなたに足りないモノとして贈られたのが私であると言った。

確かに僕は女の子の目を見て話ができない。というかそんなモノに出会わないし興味がない。
だからセックスアピールを感じたことなどない。
そりゃあ、僕に足りないモノがセックスアピールだってことは何となく理解できるけど、
それ以前に足りないモノなんて下水のゴキブリ程あるはずだ。
なぜセックスアピールなのかと問いかけても、
理解の範疇をとうに超えたそいつの存在は、必要以上の言葉を喋らない。
僕からそれ以上、そいつに話しかける義理も理由も見あたらない。
無言のままに、僕たちは見つめ合っていた。

そいつの印象はまあ、とにかく、気持ち悪い。
一言で言うならベルセルクのベヘリット。
わからない人は先生に聞いてみるといい。

そいつは見つめ合っている最中、片目を閉じたり唇を舐めたり、
鼻をひくひく痙攣させたりして僕を誘おうと必死になっている。
僕はそれに応えるでもなく、無視するわけでもなく、ただ眺め続けて夜が更けていく。
こんなにも無意味な夜を過ごす大人が他にいるだろうか。
そう思いながらも、ソレから目を逸らすことができないのは
僕に足りないたくさんのモノの一つを、手に入れたいと思っているからだ。

ソレが突如、僕の机の上に現れてから一週間が過ぎた。
相変わらず僕らは見つめ合う。そして夜が更ける。

ひとつ変わったことは、僕がウインクできるようになったことと、
唇を乾かさなくなったこと。
ソレに対して、できるだけ好意的に、自分の気持ちをアピールできるようになったこと。



1時間くらい過ぎてようやく西京焼きが運ばれてきた。
店員も、僕の存在を忘れ去っていたらしい。
いつものことなので気にしなかったのだけど、味噌汁が来ていないことに気がついて僕は店員を呼んだ。
店員は面倒くさそうに味噌汁を持ってきた。味噌汁の中にどっぷり親指を浸からせて。
ぱっちり目の店員は、ゴトンと乱暴に味噌汁を置くと、親指を舐りながらどうぞと言った。

僕はぎこちない素振りで片目を瞑る。何度も何度も瞑る。
片目を瞑る練習は、毎日怠らなかった筈だ。
アレを贈ってくれた人に、今日、出会っても良いように。






前回のトラぼけのときに書いたんです。
みんなの前でカラオケ歌ったことない弱気な少年が勇気を出して
こっそり曲を予約したけど、その曲のイントロが流れ出した時に
「この曲入れたの誰?誰?」みたいなことになり、
知らん顔してたら間違いかーなんつって消されたみたいな感じで
前回のトラぼけは終わってました。

後日ミクシーとかで
あの時、「秋桜」入れたの僕だったんだよね…
って告白するようなかんじの更新です。暑いです。仕事してます。
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# by gennons | 2008-07-15 16:10 | 妄想

バストインザダーク



Fカップの彼女の胸をIカップにすることなど、僕には造作もないことだった。

スタンプツールで腹の肉を胸に。つまんだり、のばしたり、少しずつ、少しずつ変形させていけば、
彼女の胸は、際限なく拡張することができる。これも僕の仕事、得意分野でもある。
そうやって拡張した761枚目のIカップの写真ファイルを保存して、僕は大きく深呼吸をした。

Iカップ。それ以上の大きさにするのは、世界のバランスを崩してしまうことと同義だ。
山よりも大きな昆虫が、理論上生きていけないのと同じで、
Iカップ以上の滝沢乃南には誰も魅力を感じないだろう。
そのサイズを1ミリでも超えてしまえば、それは胸であることの意味を崩壊させ、誰もが彼女をデブと呼ぶだろう。
ではIカップもその手前なのだから、もうデブ予備軍なのではないかと思いがちだがそれは違う。
Iで留まってくれているその胸の大きさは、僕らに不安と、焦りと、儚さを与えてくれる。
その危なげな、転んでしまいそうなバストに、男は皆、手をさしのべるのだ。

しかしながらアイドルのプロフィールなんて、いい加減なモノだ。
Iカップの彼女の胸が、1センチ昨日より大きくなったとしても、印刷される3サイズに変化はない。
1センチの差は、マネージャーさえ気がつかないだろう。
では読者ならどうだろう。ファンはどうだろう。
ましてや、あらゆるメディアで彼女の胸の大きさをチェックしている熱狂的なオタクなら。
今月号のグラビアは、カメラの角度や気のせいとして受け流すかもしれない。
しかしそれが毎月、確実に大きくなっていたとしたら。

一昨日の卓で、東中の言葉には覇気が感じられなかった。
毎回卓を囲むと東中は滝沢乃南のIカップについて熱弁する。
毎回同じことを、娘が生まれた新米パパのように、意気揚々と話し始める。
「男は皆、さしのべるのだ。」「それが、世界で俺だけになったとしても…」
小さな声でそう言いながら出した東中の捨て牌は二人の当たり牌だった。

ここ一ヶ月で東中の体重は18kg減ったという。
頬はこけ、目だけがぎらぎらとしている。

長い年月をかけて、東中から大金を巻き上げられていた僕は
「Iカップねぇ」と言いながら牌を積み上げた。

はじめから、Iカップでもない彼女の胸を、
明日は2ミリ大きくしようなんて思いながら僕は、
東中の捨てたイーピンを鳴いた。







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何年ぶりでしょう。
放置してても残してくれてたエキサイトさんに頭が上がりません。
下げもしませんけど。
審査対象外でお願いします。なにとぞ。
慈善事業でやってるわけじゃないんで。
お互い様なんで。
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# by gennons | 2008-07-15 16:09 | トラバ

毛並み

僕の姿が猫になったあの日、薮野さんはとても悲しい顔をして、そうですか。とだけ呟いた。
みかんには「このほうがかわいいじゃない」って言われて、たぶん彼女なりに励ましてくれたのだろうけど
僕はもうみかんのことを抱きしめられるような長い腕を持っていなかったし、
ひげが固いから顔を寄せて一緒に眠ることもできない。
みかんが食器を一つずつ、新聞紙に包んでは箱に入れて、また包んでは入れる作業を繰り返している間僕は、
いらなくなったカーテンに爪を立てて遊んでた。
暇そうな僕を見かねた薮野さんは僕の前にマタタビを数粒置いて
「やっぱり猫といえばこれだよね」という。
確かにもうみんな僕が猫であることに慣れてしまってはいたけど、
ここまであからさまな猫扱いをうけて来なかった僕は少し戸惑いながらどうもありがとう。
と言ってそれをティッシュに包み自分の箱にしまった。

「東京は空気が汚いっていうじゃない? 具合が悪くなったらここに戻ってきてもいいんだよ」

薮野さんはそう言いながらカレーの鍋を持ってきてくれた。
カレーの香辛料はみかんにとって少しきつかったし、僕が食べると口の周りがべとべとになってしまう。
それでもみかんは眉間にしわ一つ寄せずにカレーのお皿を綺麗に平らげる。
僕は小皿に少しだけ敷かれたルーを舐めて、薮野さんにおいしいですと言った。

引っ越しのトラックの中で、みかんは苦しそうに咳をしている。
薮野のカレーなんか食べなきゃ良かったのに。
思ってもそれは口にできない。みかんが無理をしてでもそれを食べるのは、それがみかんだからだ。
彼女と薮野さんの間には何も無かったけど、
薮野さんがみかんに向けた思いを感じ取れない程僕は馬鹿じゃない。

咳の治まったみかんと僕は、昔行った北海道の思い出話に花を咲かせた。
僕はあの頃が一番幸せだったし、みかんもそうだと言ってくれる。
僕はみかんに向かって「にゃあ」と猫みたいな声で甘えた。

6月の下旬に、みかんは倒れた。
東京の空気が合わなかったことと、彼女の夢であった仕事が、思っていたよりハードだったことが原因だろう。
みかんの仕事場まで迎えに行った僕は、会社の人と短い話をして、みかんと共に家まで送ってもらった。

「君が頼りないっていう訳じゃないけど猫だから。ちゃんと面倒見てくれる親戚とかいないの?誰か近くで知ってる人とか」

会社の人がそう言うとみかんは薮野さんのことを出した。
知っている人が故郷にいますから連絡してみます、としかみかんは言ってなかったけど、
そういう人って薮野さん以外にはいない。
このまま戻ったら、みかんと薮野さんは付き合ったりするだろうか。
薮野さんはいい人で、ルックスもそこそこだ。みかんも薮野さんのことを悪く思っていることはないだろうし、
ゆくゆくはそうなってもおかしくないだろう。
僕の寿命は短い。猫だから。でもみかんだって明日生きているかどうかもわからない。

病院から出てきたみかんは「大丈夫。心配ないって」なんて笑顔を見せてくれたけど、
お医者に何を言われたのか僕には教えないつもりだろう。
僕は病院に入れない。猫だから。

東京の家をそのままに、仙台に戻ったみかんは、すぐに薮野さんの家へ向かった。
その家の隣、もともと僕らがすんでいたアパートは、埃をかぶっていたけど、僕らが出て行ったときのままだった。
ドアが開いて、薮野さんが顔を出す。
家の中に促されたけど、みかんは僕を抱いて立ったまま、すぐに出ますからと言って家にはあがらなかった。
みかんは会社で倒れたこと。もう自分の命が長くないと感じていること。
薮野さんにいろいろお世話になって感謝していること。あの日のカレーはおいしかったことを伝えてさよならを言った。
薮野さんは「これからどうするの?」って聞いてきて
「俺の部屋ならいつでもあいているから」と付け足した。
みかんは、「行きたいところがあるの」と手を振り、僕の頭をなでてから、少し声をあげて言う。

「彼の、とても好きだった場所へ」
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# by gennons | 2007-06-14 16:35 | 妄想

去年の犬

その犬は、はっきりとした人語で「私はCだ」と訴えた。

Cと言えば僕が以前付き合っていた彼女の名前で、
ちょうど去年の梅雨時に姿を消した。
当時僕と彼女の間には湿った溝、情こそあれど、恋人としての意識は互いに衰弱していた時期で、突然連絡がつかなくなったり家に帰らなくなったりしたことに対して焦りはしたものの、まあまたいつか戻ってくるだろうと高を括ってのんびり過ごしたままもう一年が過ぎていた。
恋人との自然消滅というものがどれほど一般的なのかは知らないが僕にとってそれは珍しいことではなく、今までの恋愛も全て、どちらが何をというような別れを経験したことは無かった。
そうういうものに慣れてしまっていた自分が、彼女の蒸発にもあっさり諦めてしまえるような今までを形成してきたのだと思っている。

信じる信じないの意思表示をする間もなく犬は、僕がCと付き合っていた頃の思いでを、これが証拠だとでも言いたげに語り始める。

「伊豆で見つけたとろろごはんのお店に、二人でレンタカー借りていったよね」だとか「クリスマスの日は毎年教会に行って、クリスチャンじゃない私はドキドキしながらもあなたの一挙一動を横目で見ながら賛美歌を歌ったり、ろうそくの火をまわしたり、大変だったのよ」など、間違いなくこの猫はTであると、疑う暇さえ与えてもらえない。

僕はそうだね、とかあのときは楽しかったね。とか間の手を入れることくらいしかできず、犬になったCの首をくしゃくしゃとなでてやる。

玄関先でゴミ捨てに行こうとしていた僕は、片手に大きなゴミ袋を下げてCの話を聞いていた。
Cはようやくそのことに気がついたようで
「ゴミ、先に捨ててきたら?」と言ってくれた。

僕はCにあがって待っててもらうように伝え、ゴミを捨ててから月のない夜空を見上げた。空には梅雨らしく、分厚い雲が我が物顔で張りつめていて満月でも出ていたのならもう少しおとぎ話みたいな雰囲気が出たのになぁと思い、
「出たのになぁ」だけ呟いて部屋に引き返した。

「ごめんなさい。熱いのは今飲めないの」

コーヒーを容れる僕の背中に、申し訳なさそうな声でCは言った。

「猫舌って犬にもあるんだね」

そう言いながらCはぺろりと大きな舌を出し、自分の鼻を舐めた。
テーブルの脇にある椅子に「おすわり」の状態で水を飲むCは、まるで以前からそうだったように見える。このまま犬の姿で、人の声で、思考と記憶はCのままでいられるのだろうか。犬を家族のように愛する人が多いのは、僕のような境遇の人が多いからなのだろうか。

風呂はやっぱり嫌いになったようだ。
以前は朝晩の一日二回はシャワーを浴びていたのに、この状態になってからは一度も身体を洗っていないらしい。
いやがるCを押さえながらブラシとシャンプーで身体を洗う僕にCは

「だんだん、人の言葉がわからなくなっていくの」

と言った。僕にはその意味が分からなかった。
今何も不自由無く話し合っているじゃないかという気持ちと、そうできなくなるかもしれないという思いが自分の内側でこじれて僕は、何も言ってやることができない。

二人で同じ布団に入り、僕はまた彼女の話を聞いた。
猫ならまだしも、犬になったばっかりに、警察や保健所の車に追い回されたり、野良犬の社会がもう町に残っていなくて、猫の縄張りで残飯を漁ったり。

Cは延々と話し続けた。

Cの言葉は途中から徐々にあやふやになって行き、最後にはもう完全に犬の言葉になっていて聞き取ることはできなかったが、Tは話すことを諦めず、僕はずっと彼女の言葉にうなずき続けている。
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# by gennons | 2007-06-07 15:05 | 妄想

店長の肉まん。

突然ですが、鰹さんの記事にTBです。理由はとくにありません。気まぐれですよ。ええ。




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「俺は、お前を幸せにできない。抱きしめてやる資格さえもないんだ」

彼はあたしを優しく抱き寄せてからそう言うと、短いキスをして保温ケースの扉を開けた。
彼は私たちが好きだった。尋常じゃないくらい、アイシテアイシテ止まない気持ちを持ちながら、
私たちは決して結ばれない運命にある。
それは私たちが出会った時から、すでに決まっているしきたりのようなものだ。
私にも、彼にも、他の誰にもその鎖を断ち切ることはできない。

12月、外は寒いのだろうか。出勤してくる彼の顔が赤く凍えているのが悲しい。
私はこんなにも熱い思いと身体を持て余しているというのに、彼を暖めてあげることができない。
保温ケースのこの場所で、彼のそばで、一枚のガラスを隔てた私と彼は、会話を交わすことさえなく、
ただ私が売られていくのをお互いに待つことしかできない。
こんなに悲しいことが、他にあるだろうか。こんなに己の人生を呪うことがあるだろうか。

今日も私は売れ残り、人気の少ない店内で彼は言う。

「俺はお前を売るのが仕事。お前は誰かに買ってもらうのが仕事。
わかってる。そんなこと、毎日毎日確認しなくちゃわからない訳でもない。
でもどうしてだろう、それを口に出さないと、心が握りつぶされてしまいそうだ」

彼の右目から、一筋の涙が零れた。

「俺は、お前を幸せにできない。抱きしめてやる資格さえもないんだ」

何度も何度も聞いたはずの台詞。
何度聞いても、胸の苦しみが変わることなんてない。

「でも俺は、お前を立派に売ってみせる。俺なんかより、ずっとお前を愛してくれるひとに」

保温ケースの中には、私以外にもたくさんの同志が眠っている。
彼が私を愛してくれるのは、私が売れ残ったからなのだという。
そんな歪んだ愛だと分かっていても、私は彼を愛していた。

昨年はたくさん売れたのだと彼は言っていた。
毎日毎日一つずつ、買っていくお客さんがいたらしい。
私もそのひとにもらわれる予定だったのだけど、すんでのところで冬が開けてしまったのだ。

今年こそ、私はその人と店を出るだろう。
寒い朝。今年一番の、
とてもとても、寒い朝が来たら、私は彼のもとを離れる。
それは明日なのか、明後日なのか、来週なのかはわからない。

だから私たちは、今の時間を宝石のように大切に、
幸せなのだと言い聞かせてはガラスをとおして見つめあっている。












数日後……

「いや、それ去年のやつでしょ? となりので。」
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# by gennons | 2006-10-17 23:38 | トラバ

ともしび

暗闇に一筋の光が走る。光は弱く、細いもので、
ここがどんな箱なのかまた、どんな場所なのかもわからない程暗い藍色をしていて
上から覗くあなたの顔の表情も手の色も何もわからない。
たぶんここは引き出しなのだろう。
幾年もの長い間、私はこの引き出しの中で「無」を過ごし、今あなたが私を救い出す。
救い出されたと感じたのは、私が少しでもあなたに関心があったからなのだと思う。
仄暗いあなたの大きな掌が私の身体を包み、軽々と持ち上げ、
頭上に掲げて月明かりに照る私を確かめた。

「服は、脱がないで」

あなたは窓の方に向かって優しく呟いた。
シーツの擦れる音と人の気配、微かに漂う香水。
ゆっくりとした手つきでグラスを飲み干すあなたの口元と、
その向こう側に蠢く華奢な人影が、私の居場所を狭めてゆく。
押しつぶされそうな空気に私は強く目を閉じて引き出しの中の無を思った。

カシュっと乾いた音がして、不意に目の前がオレンジ色に染まる。
目を開けると、よろよろとしたマッチの炎とあなたの手が眩しい。
流れるように、私に火を灯すあなたの胸元が綺麗で、
私は口の中に溜まった唾液を床にこぼしているような感覚に囚われた。
私の身体はまだ、溶けていない。

頭上に灯された炎は、揺れることなくまっすぐに、
あなたともう一つの輪郭を浮かびあげる。
ベッドのシーツは深い緑であなたの身体は少し日に焼けた肌色。
白い肌色とあなたの肌が重なり、揺れて、囁くあなたの声と、
それを切り裂くような高い小さなかすれた声。
あなたの吐息やゆったりとした背中の動きは私の炎まで届かない。
風のない部屋で、私は静かに二人を照らしつづけた。
熱くなった頭上から、涙とも愛液ともとれない白く濁った液体が
細くまっすぐな体を伝って流れては固まり、また流れては固まって、
これが涙であるのならどんなに楽だろうか、
泣くことができたら、少しはこの気持ちが晴れるのだろうかなんて、
できもしないことに思いを巡らせてただ、私が消えてしまうのを待っていた。

私は熔けてゆく。
芯に火が灯されて、その熱で少しずつ短くなり、
全てがどろどろに熔けてなくなってしまうまでが私の一生だ。
五月蠅い蝉よりも、はかない陽炎よりも私のいのちは短くて
数時間、あなたを照らすだけの役割を持って産まれた。
短い人生なのだと人は思うのかもしれない。
今の私にとってこんなに長く、苦しい時間はないのだけれど。

私の身体はとても小さくなっていた。
足下には熔けて流れた液が、白く固まって広がり、
私のシルエットを不細工なものに変えている。
スラリと長かった私の身体は、あともう少しで全てこのどろどろに変わってしまうだろう。
泣き叫んでも、覚悟を決めても、懇願しても、無慈悲な炎は少しずつ冷たく、私の身体を溶かし続ける。

私はあなたの寝顔を照らしながら
少し幸せなのかもしれないと思った。
あなたの寝顔がとても愛おしかったから。
私は精一杯の力を込めて、あなたにおやすみを言いたい。

どろどろに溶けきってしまった身体の真ん中で、
小さい炎は手を振るように左右に揺れてすぐに消え、
静かな煙が立ち上る。







大丈夫。元気にしております。
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# by gennons | 2006-10-11 02:45 | 妄想

せめぎあい。愛。

前回の更新から一ヶ月以上もほったらかしていました。
何よ。謝らないわよ。

年金を取りに行っていたせいで、ゴーイングメリー号には乗っていません。
その後の飲みには参加したのですがあまり記憶がないですね。
記事にすべきことは忘れてしまう都合の良い脳味噌を持っています。
さて。




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「得やとか損やとか、そんなんは隣の芝がなんとかっちゅうのと一緒や」

センさんはそう言うと昨日裏ルートで仕入れてきたという“ややこしい漢字の書いた焼酎”の蓋をキリリと開けた。
赤ん坊が女湯で堂々としていられたり、見ず知らずの女性に抱きついたり
できることを羨んでこぼした僕の心無い一言は、温厚な彼の地雷を軽くつま先あたりで踏んでしまっていたようだ。
センさんはまだ点けたばかりのタバコを、灰皿で捻り消した。

「これかてそうや。赤ちゃんがタバコなんか吸うてたらえらいこっちゃろ?
飯くうた後の一服もでけへん。またっく不自由なもんやで。赤ちゃんゆうのは」

「でも僕、やっぱりセンさんが羨ましいです……
好きな子に抱きついて、可愛いって言われて、どこ触っても怒られないし、
やっぱりそんなセンさんを僕は……」

いつの間にか高ぶった感情が言葉を詰まらせた。
気の抜けたようなセンさんの態度に、僕は多からず憤っているのかもしれない。
センさんは、誰にでもそうするように昨日、あのミッチャンに抱きつき、オッパイを触り尽くしていたからだ
僕の気持ちを知っていながらそれを軽くやってしまうセンさんが羨ましくもあり、憎くもあった。

「結局、セックスまではいかれへんねや」

焼酎をグイと飲み干したセンさんが、吐息と共にそう呟いた。
彼の目はどこか遠く、僕の知らない寂しい風景を思い描いているような悲しい顔をしていた。
センさんにとっての過去なんて、母胎の中以外に考えられないのだけど
僕のノウミソはそれすら思い出すことができない。
おっぱいの感触や谷間の空気、ミッチャンの髪の柔らかさ、皮膚の感触。
僕はセンさんの知るものを何一つ持っていない。

「セックスなんて、僕だってできない」

力無く言った僕を、センさんは充血した目で睨んで焼酎を飲むと、
力一杯グラスでテーブルを叩いた。
僅かに残っていた焼酎が床にこぼれたのだが、僕は驚きのあまりそれにも気が付かなかった。

「お前にはまだ可能性があるやないか。絶対でけへんなんてことはないやないか!」

センさんは、、目に涙を溜めていた。
大きな声で凄まれたことと、センさんの涙という2つの要素が
僕の中にある何かを揺さぶったためか、僕の目からはぽろぽろと涙が溢れだしてきた。

「ちょっと、おおきい声出してもうたな……」

センさんは聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で呟いた。
つぶらで大きく輝いた瞳があまりにも綺麗で、赤くなった顔によく栄えている。
こんな顔でおっぱいを揉んでも、揉まれた方はありがたいとさえ思うような可愛さだ。
僕にもセンさんくらいの時代があったのだろうか。
センさんも、僕のように成長してゆくのだろうか。

結局センさんが悲しむことと、僕が寂しいと思うものの種類は同じであると思う。
ここでどっちが有利とか、早いとか遅いとかいう争いからは何も産まれない。
僕もセンさんもそれを知っているのだ。
僕らはただ、星空を見上げながらベランダで、こうして話をしていたいだけなのだ。
だから女なんて、みっちゃんなんて、本当は、本当はッ……

「これ、お前にやる」

センさんは細長い紙袋を差し出した。
紙袋の中には綺麗な布に包まれた細長く固いもの。
僕は慎重にその布を剥ぎ取る。

「そうや。女の服を脱がすみたいにそぉっとや。優しく、それでいて強引に」

リボンをはずし、布を脱がすとタオルが出てくる。

「そのタオルはソレにとったらパンティみたいなもんや。
布の感じを指先で味わいながら、中身を確かめてみぃ」

タオルをころころと転がすと、ソレの厚みが少しずつ薄くなり、
やがて本体を露わにした。

木彫りのちんこだった。

ちんこというにはとてもとても立派で、僕の鉛筆なんかとてもかなわない。
まさかと思い、センさんの股間を見たのだけど、センさんはゆっくりと首を振る

「わしにこんなもんついてたら、パンパース入れへんやろ」

「これはご神体や。わしら童貞が崇め祭るべき神や。
これをお前に預ける。わしのより先に、男になってくれ」

焼酎のグラスが月夜に照らされて、中の液体が夜の海原を思わせた。
黒く、ゆっくりと揺れる水面。
その奥に蠢くいくつもの欲望。
僕はそのうねりの中に飛び込もうとしているのかもしれない。

「見事童貞を捨てた暁には、今のお前みたいに燻ってる少年少女に手渡すといい
わしが持つには、少々早かったのかもしれんなぁ」

センさんはそういうと、何かを思い出すかのように夜空を眺め、グラスの焼酎を飲み干した。









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撮影/東京・神保町




********* ご神体リレー ***********
ご神体を入手した人は、テケトーではなく、掲載にあたり十分に配慮した
写真を撮り、写真と撮影場所を入れたご神体記事を掲載してください。
また、入手先の、ご神体記事にトラックバックかけてください。

イラストでも可としますが、ちゃんと入手するように。
写真掲載にあたっては、自己責任にてお願いします!!

※このテンプレを、ご神体記事の最後にコピペお願いします。

【思いつき】 後悔 先に立たず
http://nomi.exblog.jp
****************************

【リレー走者】
0)ぽふさん(関東)
1)nandeさん(関東)
2)sivaxxxxさん(大阪)
3)和サイケデリコさん(大阪)
4)やまねこさん(関西)
5)colortailさん(広島)
6)しすこさん(大阪)
7)himeko171さん(兵庫)
8)うっちぃさん(大阪)
9)moko2.さん(九州:横浜にて撮影)
10)バント(東京)
11)雛さん?icedayさん?(東京)

12)足草(マラダイスTOKYO)





追記
リンク付けました。
あと、この記事をあげるのが早すぎたようです。
雛さん(アイスさん)の記事にTBが正しかったようです。
なんて陰毛。
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# by gennons | 2005-08-30 12:11 | トラバ

ドナルディ、高橋

下のシモキタバッシング記事、もっと怒られると思っていましたが
意外や意外、みなさん「短歌がステキー」とか「あしくささんステキー」とか
「私のルーズソックスもらって下さいー」とか「むしろソックスだけじゃなくてs(規制)」

……というか、下のコメント欄にルーズソックス履いている年齢の方はいませんでしたね。
さらに言うと今日びルーズソックス履いてる人なんていませんね。
はいはい、すみませんでしたね。

さて、話は童貞の世界観とホストの価値観くらい変わりますが、
最近僕のエロ汁の出が少なくなってきています。
僕のエロ汁はてのひらと指先からにじみ出るのですが、昨日あたりから
握ったマウスもさらっとしているほどに汁気がない。
これはどうしたことだ。まあいつも通りに書けばそのうちマウスやキーボードもべとべとになってくるだろう。
なんて考えながら書いた結果が↓です。エロくない。ごめんなさい。



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パーティションを立てるにはビームという支えを並べてそこにポールを立てる。
そうしてそのポールとポールの間(1Mくらいの間隔)に加工した白いベニヤ板を上から溝に沿ってはめ込んで下までストンと落とす。
繰り返し繰り返し並べられたビームの上にストン、ストンと板を落としていき、徐々に大きな長い壁がこの広い空間を仕切り始めるのだ。

「ペンチとって」

僕よりも二年先輩の高橋君が脚立の上から言った。
僕は彼の顔が汗で滲んでいないかどうか心配だったのだが、それを確認する勇気がなかった。
幕張の会場はまだ7月だというのに熱気で溢れている。
僕は額の汗をTシャツの袖で拭うと、高橋君に柔らかいタオルとペンチを手渡した。
高橋君は脚立の上で上部のビームをボルトで固定しながら、いつも彼女ののろけ話をする。
僕はそれを聞きながら次々に運ばれてくる大きな板をはめ込んでいく。
単調な作業をしながら聞く彼ののろけ話はバラードのBGMを聞くようで、別段不快なわけでもなかった。
ただ、僕が気になっているのは高橋君の彼女の話ではなく、彼自身についてだった。

僕の所属する会社はイベント設営の派遣業でみんな同じトレーナーかTシャツを着ているのだが、高橋君だけが違うユニフォームだった。
黄色いオーバーオールに、赤と白の土派手なタイツ。
髪と鼻と唇は真っ赤で、顔は白粉を塗っているのだろう。真っ白だ。
一見するとサーカスのピエロのようだが彼は自分のスタイルのことを「ドナルディ」と呼ぶ。
僕はその意味がよく分からず、何度も聞き直したことがあるが、高橋君はハンバーガーがどうのとか、
マックがどうのとかいう話しをするだけでどうも要領を得なかった。
ただ彼は、素顔を見られてはいけないのだということがわかった。

「子どもらの夢があるんだよ」

顔を明かせない彼の理由はこうだった。
高橋君の顔に何故子供たちが夢を見るのかなんて僕には分からなかったが、
この顔が高橋君だということにも慣れてしまっている、というかこの顔しか知らないので
素顔を見たいとは思わない。
むしろ見てはいけないものだという意識の方がずっと強かった。

蒸し暑い館内、脚立の上からはポタポタと高橋君の白く濁った汗が垂れ落ちる。
その度に彼は柔らかい布で汗を拭き、ポケットからおしろいを出して顔に塗る。
汗の流れ落ちた肌の隙間から、高橋君の肌色を時折垣間見るが、僕は見なかったことにしている。
昼休み、僕は高橋君とハンバーガーを頬張りながら、彼の外した黄色い手袋が油で黒くならないように
そっとおしぼりで拭いた。

「ありがとう」を言う高橋君の笑顔が眩しい。
子供たちはおしろいの奥に輝く彼の目に、夢を持つのではないか。

「どうせ俺は会社のピエロなんだから」

彼はそう言ってハンバーガーの包みをクシャクシャと丸めながら溜息をついたが
おしろいで隠された彼の表情はずっと笑ったままだった。
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# by gennons | 2005-07-26 20:14 | 妄想