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ドジョウの村山君

三日間風呂にも入らず、ケダモノの形相でパソコンに向かっていると
新入社員の人が社長と共に一人一人挨拶して回ってきた。
次は僕かと思い少し緊張していたのですが
僕を飛ばして別の社員へと挨拶が通り過ぎていきました

臭い?

こんなことくらいでは挫けません。
僕は強くなりましたから。(涙を汗だと弁解しながら)




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寒くなってきたのでお風呂を沸かし、入ろうとしたらドジョウが湯船で泳いでいる

「ヨッ。おれっちドジョウの村山君ちゅうねん。よろしく」

ドジョウの村山君は気持ちよさそうに湯船の中を泳ぎ回っている
数限りなく突っ込みたい所はあったが、とりあえず我慢して一つだけ聞いてみた

「何してるんですか……?」

「何やあれへんがな。おれっちは風呂がめちゃめちゃ好きやねん」

「いや、だから何故に僕の家の風呂に入っているんでしょうか」

「何故も糞もあるかぁ!おれっちが風呂でくつろぐのがそんなにあかんことか!?」

とりあえず「おれっち」という一人称が鼻についた。もう何を聞いていいのか分からなくなってきた

「なんや?おれっちがドジョウやからあかんのか?ドジョウやちゅうだけで、差別するんか?」

「いや、そういう訳じゃないんですけど、今から僕も入ろうと思っているので……」

「あそ。一緒に入るか? 裸の付き合いもたまにはええがな」

「いや…………、遠慮しておきます」

「何や何や。つれへんやつやな」

「後で入るので終わったら教えてください」

「おぅっ!了解了解かしこまりー!終わったら呼んだるからな、居間で渡る世間でもみとけや」

「わ、わかりました……」

疑問や不思議は多々あった。
もっと聞くべきことが沢山あるような気がしていたが何も言えなかった。
納得いかないままに僕は居間に向かう。

「ピン子はなぁ〜ええ女やけどな〜泣くからな〜泣き顔ブッサイクやしな〜。
かずきも大きなってからに。あの糞坊主が……」

風呂でのこだまが響き、僕の背中をずるずる舐めるようで気持ちが悪かった
居間のソファにずっぽりと腰を降ろし、テレビの電源を入れてタバコに火を点ける
どこから入り込んだのだろうか……
いや、それ以前にドジョウって喋ることができるのか。
テレビはどこで見るのだろうか。
ピン子はいい女なのか……
まとまりのない疑問が頭を駆けめぐり、僕を混乱させる
うなじがじんわりと熱くなり、風邪に似た症状が僕を襲った
考えるのが面倒になって、僕はテレビを眺める
毎週見ている訳ではない、ドラマ。
ピン子は三角巾に割烹着姿で泣き笑いを繰り返している
うむ。
どう考えてもいい女には見えない

「おうぃ!!ちょっと、にいちゃん!おーうい!!」

風呂場から妙に上機嫌な声が聞こえた
やっと風呂に入れると思い、僕はのろのろと腰をあげて風呂場に向かった

「おうい!何してんねん!おういったら!」

「わかったわかった。今行きますから」

何故急かされなくてはいけないのだろうか。
風呂が嫌いだった幼少の記憶が蘇る。
そういえば、父親はいつも僕を風呂に入れようと急かしたな
懐かしい気分に浸っていると、村山君がまた声を上げる
どうやらまだ風呂場にいるようだ

「まだ入っているんでしょう?上がったら教えてください」

「おうい。そんなことよりちょっと来てくれよ!」

何だかよく分からないが、まだあがるつもりはないようだ。
僕はやれやれと小声で呟きながら風呂場の扉を開けた

湯船から村山君の尾ひれだけがひょっこりと飛び出している
頭を逆さにして微妙なバランスを保っているようだ
何がしたいのか全く分からず、僕は呆然と村山君を眺めていた
そして村山君はじゃぽんっと湯船から顔を出し
自慢気な面持ちで鼻を鳴らした

「シンクロ」

村山君の一言。
僕が、え?何?と聞き返すと、村山君は得意気に

「ギャグ。新しいギャグ。どう? シンクロ。おもろいやろ?あー苦し。結構つらいわコレ。
20秒が限界のラインやな。何?見てなかったん?もっかいやろか?」

と言うと、村山君は再びじゃぽんっと湯船に頭を突っ込んだ
僕は怒るよりも呆れてしまって、そのまま扉を閉めた
扉の前で僕は膨大な疲労に襲われた
このまま座り込んでしまいたいなと考えていると
村山君がまた声を上げる

「ちょっとちょっとちょっとーー!無視かーーーいっ!」

「もういいですから。変なギャグは。早く上がって出ていってくださいよ」

扉の前で僕は村山君に懇願した。
間を置いても返事がない
少し沈黙が続いて、僕は村山君が可哀想になってきた
そして静かに扉をあけて“しまった”

湯船に村山君の姿はなく、ぶくぶくと水面に泡がはじけている
ドジョウなので溺れる心配はないと思いつつも、僕は若干心配になって覗き込んだ
すると村山君がゆっくりと水面に上がってきて

「ザッパーーーーッ」

と大袈裟な効果音を口で表した

「ゴジラ」

「え?」

「いや、だからゴジラみたいやったやろ?」

「……………………はぁ」

「ほれ、突っ込んでええんやで。こういうときはもうバンバン突っ込んでや。
あれ?自分、突っ込み知らんのん?
これやから東京のモンはなぁ。
あんな、大阪ではな、こんなおもろいギャグ飛ばしたらバンバン突っ込み入るねんで
もうな、こっちおったら誰も突っ込まへんわ。残念ながら。
おれっちがボケてんねやからもう突っ込んで突っ込んで〜
突っ込みないとあかんわ。体調崩すわほんまに。
何でやねん!とかゆうてや。ほれ、何でやねんって、言うてみ?
あ、そん時な、手の甲でバシッっちゅうてはたいてもかまへんねん
ほれ。
ちょっと。聞いてる?自分さっきからサブいわ〜。
おれっち風呂入ってんのにサブいわ。
おれっちの顔みてみ?
もう茹でて真っ赤。
はいっ!ここ突っ込むとこやで!
ほれそうやって…………
東京……道聞いても冷た…………
ヒガシマルの…………
……………………NSC入ったらそんな…………
お前とはコンビ…………
…………テンドンゆうて…………ノリ突っ込みが……………………」




村山君は実に愉しげである
僕には何の話しなのかさっぱりだ
とりあえず疲れを癒す為にもひとっ風呂入りたかったが
この話がいつまで続くのか分からなかったし、
村山君がどうやって湯船から出てくれるのかも分からない
僕は村山君が話している言葉にうんうんと頷きながらバスタブに近づき、
風呂の栓を抜いた
お湯が排水溝にくるくると吸い込まれていき、
水位はゆっくりと下がっていく
村山君は喋ることをやめるばかりか徐々に興奮してきて
大袈裟なジェスチュアを織り交ぜながら水面をばしゃばしゃと波立てていた

「…………ンタウンが……四時ですよ〜だの………………………………ザマカンに変わってから」

とそこまで言ったところで、村山君は排水口につるりと吸い込まれていなくなった
最後まで、一つも彼の言葉を理解できなかった
理解しようとも思わなかった
僕はピン子がいい女である要素に頭を悩ませながら
もう一度風呂に湯を溜めた
by gennons | 2004-11-25 13:42 | 妄想
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