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こちら、二十五年ものになります。

暑いのも寒いのも別に嫌いじゃない。というか寧ろぼくは両方好き派であると思う。
ぼくの家は暖房器具も冷房器具もない。
いや、あると言えばあるのだけれど、それは布団だったり毛布だったり
ガスが抜けたままのエアコンだったりするので無いといっても過言ではないだろう。
だから夏は暑いし冬は寒い。
でも仕事以外特にすることもないぼくは、夏に暑さを凌ぐため
冬に寒さを凌ぐための「工夫」に時間を費やしている。
暑い夏には冷水シャワーを一日に四度くらい浴びる。
寒い冬にはできる限り常に酔っぱらって、寒さを感じる前に眠ってしまう。
そんな自然な日常をこよなく愛するぼくだが、やはり一つだけ困ったことがある。

夏に足が蒸れて臭くなるのである。

ワキガでもないし、口臭が特にひどいわけでもない。(そう願ってるだけかも)
けれどというか、だからというか、足が臭いのである。
最近はその臭いも衰弱しつつあるのだが、全盛期には想像を絶する足臭のオーナーだった。
全盛期は高校生のころで、このころの臭さは匂うに耐えないものがある。
高校の頃はバスケットボールに勤しんでいたので、夏場の暑い体育館のなかでハイカットのバッシュを履いて何時間も駆け回る。
部活が終わった後、みんなしてバッシュを脱ぐ激烈タイムが訪れるわけなのだが、
バッシュを脱いだぼくの靴の中からは「目に見える異臭」が立ち昇る。
「みんなごめん……」という悲しい遠慮を小脇に抱えて着替え場所の隅っこでこの臭いを一人愉しむ。
高校三年生くらいになると、ぼくの足臭というか「アシガ」も有名になり、
堂々と足臭いですよ〜と笑えたものだったが、辛かったのは高校を入学してすぐくらいの時だ。
「誰かの足が臭い」そんな張りつめた空気が立ちこめると
「ぼくの足臭でーす♪」なんて言えるわけもなく、ただひっそりとその場から姿を消していた。
そんなある夏の授業中、ぼくは裸足で授業を受けていた。
そんなとき、2つ斜め後ろのクラスメイトがぼそっと呟いた。

「……なんか……臭ない?」

その一言で教室には火がついたように臭いかも騒ぎでざわざわし始めた。
2つ後といえば結構な距離があるのにも関わらずこの臭いは届いてしまっていたのだ。
その時間は強烈に恐い物理の先生の授業だったので、普段は私語をするような奴はいない。
物理の授業で教室が騒がしくなったのは初めてのことだったので
臭いのは自分の足だと薄々気づいていながらも、このざわめきを先生が止めてくれるように願った。
しかし事態は急展開。先生までもが臭いと言い始めたのである。
「ちょっと窓開けー」と窓際の生徒に促すと窓際の生徒全員が窓を開けた。
ぼくは授業どころではなく、「休み時間になったら外で足を洗おう……」と
思いながら必死にこの時が過ぎてくれるのを待った。
しかし事態はこれだけで収まらなかった。
不運にもぼくの前の席に座っていたK子ちゃんがか弱い手をゆっくりと上げる。
「先生……気分が悪いので保健室に行って来ます……」

大袈裟!!こんな事で保健室に行かせるのか! 先生!! 

教室中の窓も全開じゃないですか!

「わかった。誰か付き添ってやれ」

えーーーーーーーー!!!そんなに重傷なの!?

ぼくは彼女の後ろ姿しか見えないので何とも言えないが顔色がすこぶる悪いのか!?
いや、ただの足臭じゃないですか!そんな大袈裟な!
保健室に向かうK子の足取りが少しふらついている……
教室を出る間際、彼女の表情がちらりと見えた。

顔、真っ青。

ぼくは愕然とした。もうここまでくるとそれはタダの足臭ではない。
完全に「罪」である。
ぼくのアシガは法的に処罰されてもおかしくないレベルにまで達していた。
休み時間、念入りに足を洗い、教室に戻って次の授業が始める頃
クラスメイトはさっきまであんなに臭かったのに今は臭くない。
一体何があったのかと首を傾げるばかりであったが
その悲しい事実を知っているのはもはやぼくだけであり、誰にも教える気はなかった。
そんなダークな過去を持っているだけに、社会人になった今では特に気をつけている。
お風呂ではもちろん足専用のごしごしタオルで指の股まで丁寧に洗っているし
靴下も危険を感じたらすぐに履き替えるようにしている。
しかしながら会社は土足。靴を脱ぐことができないのでぼくの足は蒸れるばかり。
人一倍足に汗?を掻きやすい体質なので(たぶん)家に帰ってから靴を脱ぐと、これは誰も家に入れられない.
ましてや彼女ができた日にぁと、一人自分を嘲笑う。
誰にだって隠したい過去や性格、体質がある。
それが他人にとってどれだけ大変かを理解するのは難しい。
ましてや彼女ができそうなときとかはなおさらで、ぼくはできるだけ同じ悩みを抱えてそうな女のコを選んでしまう。
同じアシガを共有できればその苦難も半分半分にできるかなぁとか甘いことを考えている。
でもやっかいなことに、他人の足が臭いと激昂してしまう未熟な自分もいるわけで
当分彼女もできないことが伺える。
by gennons | 2004-09-09 02:13 | 今日も足が臭い
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